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ENO Sweeney Todd ・感想(2)/ こんなの見たら知恵熱でるよね

本編が始まると、オープニングのスピード感は少し落ちつきます。ストーリーに沿っての感想では増長になってしまうので、特に思い出に残っていることを書き留めていこうと思います。

まず主要男性キャストのSweeney、Judge Turpin、Anthonyから。
今回の公演でとても新鮮だったのは、この三人がとても生々しく描かれていたことでした。
男の業、よく女の業とはいいますが、男の人にも該当するのかな?
でもあえて言うなら男の業が描かれていたと思います。
Sweeneyの失った妻子に対する執着、Judge Turpinのジョアンナに対する抑えきれない欲望、Anthonyは若者のまっすぐに突き進む激しい恋心。このあたりの描かれ方がとてもリアルで、これはもう俳優さんの演技という範囲を超えて、むき出しの姿を見せつけられているようでした。(これを目の前2,3メートルの所で見られるとは!)

主役Sweeney Todd役のブリン・ターフェルさん。
ブリンさんといえば素晴らしいバスバリトンであることは言うまでもないので、ちょっと違う角度から。大きな体格で目力もあるブリンさんが、ほとんど無表情、ニコリともしないだけでも、震え上がるほど怖いです。以前見たマイケル・ボールさんのSweeneyは青く凍り付いた光をまとっていたのですが、ブリンさんのは黒く重い水の底に沈む感じ。絶望しきって心を閉ざした人の目をしていました。妻子のたどった悲しい運命を知ってからは復讐に燃える狂気の目、そのためなら他人の命を奪うこともなんとも思わない人が、Mrs Lovettにだけは次第に心を開き、時にはなんとも言えない優しい目をする。この人は本当は心の優しい人なんだと一瞬でわからせるブリンさんの目の演技にすっかり魅了されてしまいました。またかつての愛妻ルーシーを自分の手にかけて殺してしまったと知るその瞬間、表情と目だけで、狂気→驚愕→愛おしさ→哀しみを見る見るうちに変化させて演じきりました。最前列で見た日は、さらに額からにじみでる汗までも見ることができて、そこにいるのはブリンさんではなくSweeneyそのものにしか見えない。こちらも心が絞られるようでした。もう感動を通り超えていました。

Judge Turpin役のフィリップ・クァーストさん。
最初は身なりの良い立派な紳士そのもの、だがその実態は、娘として育てているジョアンナに対する欲望にのたうち回りながらもそれを押さえることが出来ない男を全身で演じていました。フィリップさんの男の色気といやらしさは絶妙でした。自分を鞭打ちながら(汗と唾にまみれて)歌う姿は生々しく醜く、そしてどうしようもなく憐れでした。(ひどい言葉を並べていますが滅茶苦茶褒めているつもりです)
ブリンさんとデュエットするPretty Womanはさすがの一言、耳福の一曲だったことも書いておかなければ。

Anthony Hope役のMatthew Seadon-Youngさん。
彼は私の中ではとても新鮮でした。この役はどちらかというと少年ぽさの残る薄味なイメージだったのですが、マシューくんの演じたAnthonyは積極的で前向きな現代の青年でした。ジョアンナに対する恋心を少しも抑えようとは思わない、恋の為なら何をも恐れない若々しい向こう見ずさがよく出ていました。彼とならジョアンナが外の世界へと踏み出して行ける、そう思いました。


さて次に女性陣です。

まずはもう一人の主役Mrs Lovett役のエマ・トンプソンさん。
今回のSweeneyで、エマさんが演じるMrs Lovettはまさに光でした。人肉をパイに入れて売りさばくなんて恐ろしいことを平気でやってしまうくせに、大きな体格のブリンSweeneyのまわりで子犬がまとわりつくように、つま先立ちで顔を近付ける時のかわいさ。一幕最後にsweeneyとのデュエット、A Little Pliest では手鏡を使ってSweeneyの注意を弾きつけまんまとキスしてしまいます。彼女のMrs Lovettでいいのは、すべての人に対して優しみがあることです。目の前にいる人をなんとかしてあげたい、Sweeneyに対しても、トバイアスに対しても彼女の示す優しさが物語に大きく作用するんですね。ただこれだけの大舞台で、ブリンさんを相手にほぼ出ずっぱり。身体を張っての演技に、その消耗も大変なものだっただろうなと思います。それと彼女の歌声、これみんなに聞かせてあげたかったな。決して高くはないんだけど、心地よい可愛らしい声なんですよ。


Johanna役のケイティ・ホールさん。
もう彼女はクリスティーヌで何度も見ているので、実力がある方だということは知っていました。彼女の魅力は歌の上手さに加えて、現代の女の子らしさがあることかしら。Judge Turpinの前ではしおらしく従順な娘のようにふるまい、Anthonyの前では本来の快活さを取り戻す、この落差があることで、Johannaが物語の世界から飛び出してくるようなリアルさを感じさせてくれるのかなと思います。ちょっと話はそれますが、彼女の衣装にも注目してしまいました。ケイティの身体につかず離れずの綿ローンのような透け感のある白いドレス。裏側に肌色の裏地でも貼ってあるのでしょうか。まるでうっすらと肌が透けているように見えて、そこが清純な乙女らしくも、またJudge Turpinを一層悩ませるタネのようにも見える。これわざとかしら(笑)?



この公演、休憩時間を入れて3時間余り、その間ひと時も気を抜けないほど緊張感がありました。アンサンブルは総勢30人余り、彼らはほぼ出ずっぱりと言ってもいいほど舞台上にいます。みな思い思いに動いているように見えるよう振付されているんです。時にはスィーニーとMrsラヴェットの二人だけのシーンでも舞台袖の床に座っていたり、オケボックスを通り過ぎて行ったり。複雑な動きは俳優さんも気を張ってやっていらっしゃるでしょうが、見ている側も緊張しっぱなしです。幕間の休憩時間ですらコーヒー飲みながら、お喋りしながら舞台上にいるんです。この時は現代のコンサートの舞台裏のシーンのようですが。どこまでがステージかわからない(汗)(続く)

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          English National Operafacebookから


cast:
weeney Todd :   Bryn Terfel
Mrs Lovett :         Emma Thompson
Anthony Hope :     Matthew Seadon-Young
Johanna Barker :  Katie Hall
Judge Turpin :      Philip Quast
Tobias Ragg :       Jack North
Beadle Bamford :  Alex Gaumond
Beggar Woman  :   Rosalie Craig
Pirelli  :        John Owen-Jones