今日も明日もJOJさんとか色々と

ジョン・オーウェン=ジョーンズさんをLove&Watchしてます。その他のネタも多し。

オペラ座の怪人ケン・ヒル版 観劇録(1)

1.全体の印象、感想
JOJさんが来日公演の「オペラ座の怪人ケン・ヒル版」に出演するという発表があるまでは、存在は知っていたけども、未見でした。あらためてリサーチしてみると、どうも評価が分かれる作品のよう。できるだけちゃんと理解したいと思い、原作を読み返したり、2013年公演時に収録されたビデオを観たり、できる限りの予習をして臨みました。

原作は言うまでもないけれど、19世紀のパリ・オペラ座を舞台にした、ガストン・ルルーの「オペラ座の怪人」。オペラ座、女優や裏方含め、そこで働く人々の恋や欲の人間模様、謎の怪事件、幽霊orファントムの存在、殺人事件...といった魅力的な要素を、ルルーが元新聞記者だからというのもあって、余計な装飾なしで、あえて事件簿のように淡々と描いてる作品。自分もオペラ座の片隅に身を潜めて、事の成り行きをじっくり観察するような楽しみはあるけども、ファントムとクリスティーヌ、ラウルの恋模様って感じの作品ではないですね。実はずっと若いころに読んだときは、恥ずかしながら途中でリタイアしてしまった(笑)。そのころは私もALW版から入って、では原作も読んでみるかという感じだったので、その語り口の違いに面食らったという感じだったかもしれないですね。その後2004年の映画化をきっかけに再度原作を読んでみると、背景となる世界の描写が克明なことにビックリ。ラスト近くのファントムの決断には涙が止まりませんでした。

ケン・ヒルさんはこの原作をできるだけ踏襲した形でミュージカル化しようと思い立ち、1976年に最初の版を、その後音楽もすべて19世紀後半のオペラ座で実際に演奏されたであろう曲目を使って、1984年に現在の版を作ったそう。グノー、オッフェンバックヴェルディ、ウェバー、モーツァルトドニゼッティ、ボイト(のちに1992年、初の日本ツアー時にドヴォルザークも追加)のオペラ・アリアに置き換え、物語に合った詞を書きました。アメリカ、イギリス各地で公演し、1991年にWest End初演。翌1992年にはオリビエ賞にもノミネート(ミュージカル作品賞、演出賞)。ただ、作品としてはALW版より先にできたケン・ヒル版ですが、West EndデビューはALW版が1986年と先になり、間もなくケン・ヒルさん自身がお亡くなりになったことも、この作品にとっては痛恨の極みだったかなと思います。

まずオペラ座の怪人と聞いたら、大多数の方はALW版をイメージされるでしょう。私も大好きな作品ですし、あの作品自体は完成されていて、他を探る必要もない気もします。一方で、ケン・ヒル版の方は、原作と双方向で楽しめる感じと言えるし、原作→ケン・ヒル版→ALW版という方向で、あるある感を楽しめる作品だと思いました。あと、ケン・ヒル版のほうが、ある意味でパリにあるオペラ座、オペラ・ガルニエをも思い起こさせる感じかなとも。実際舞台を観ながら、なぜか何度もイメージが重なるんですね。それもシャガールの天井画のある劇場や大階段、天上の高い回廊ではなく、ほの暗い階段、ボックス席の扉を開けると並んでいる赤いベルベットの椅子と、一隅においてあるマダムジリーが座ったかもしれない質素な椅子とか、なぜかメインの所よりちょっとした影の部分を思い出す。それは舞台装置が同じとか言うのではなくて、この作品の持つ薄暗いイメージ、ちょっと隠微なイメージがそうさせるのかな?と思いました。


「舞台を楽しんでくれ。全くもって楽しい舞台だ。ちょっとだけ深刻なものだけどね。人生のように…」
(“Enjoy it. It's all fun. Though it has its serious bits. As in life ...”) Ken Hill


さて前置きが長くなり過ぎましたが、8/29(水)初日、まずシアターオーブの客席に入っての第一印象は、舞台を随分小さく使っているってこと。左右に字幕やスピーカーがあるとはいえ、前方の客席の左右5~6席が見切れ席になっていたんじゃないかな?ちょうどロンドンの古い劇場のように、馬蹄形の劇場であれば、距離感は丁度良かったのかも。今回はキャストが客席に降りたり、客席の通路を通って出入りする演出が多かったので、10列~16,7列位のところが、自分もオペラ座の客として、キャストと一緒にシャンデリアが落下するんじゃないかと怯えたり(笑)、行方不明のクリスティーヌを探す一員になった気分を味わえたんじゃないでしょうか(笑)。


それと始まってすぐ気が付くのが、とにかくコミカルってこと。可愛いバレリーナが出て来て、一人で練習始めたかと思ったら、失敗してクソって悪態をつくw 有能らしいけどちょっと自分勝手な新支配人のリシャードや、新しい支配人のご機嫌を取って身の安泰を図ろうとする俳優陣。ファウスト(劇中劇の役名だけど登場人物としてもこの名前だけ(笑))なんて自己愛の極みだもんね。ボックス席担当の案内係マダム・ギリーはオペラ座のゴーストの伝言係でご本人も十分おどろおどろしいけど、ある意味でこの状況に酔ってるっていうのか、悪魔崇拝的というのか...ああそうだ、ラウルはこの作品では子爵ではなく支配人リシャードの息子ってことになってるけど、彼もカッコいいんだか、ちょっと抜けてるんだかって感じ。要するにこのオペラ座に関わってる普通(のはず)の人々全員が、すでにキャラが濃い、普通じゃない人々なんですね(笑)。その中で、ファントムをからかったメフィストフェレス俳優(なぜかオネエっぽい設定)がロープに引っかかって殺されちゃったり、主演女優のカルロッタがシャンデリアの下敷きになっちゃって死んだり、血生臭い。

普通ただのドタバタになるんじゃないかっていうギリギリのところまでやって、なんとか持ちこたえてるのは、これを演じているコミック担当(勝手に命名)俳優陣が、本当に実力があるって、一目見てわかるほどの方々だからなんですね。結構高齢な俳優さんもいらっしゃるんだけど、苦しみながら歌うシーンも、横になりながらでも素晴らしい声量で、クラシックの有名曲を歌われる。目線や身のこなしも行き届いてる。その上でのコミックシーンだから、品が悪くならないのね。

その中でラウルはコミックとシリアスを行ったり来たりするポジションかな?ラウルを演じているCameron Barclayさんは背もスラッと高いイケメンなんですよ。でもこのラウルって、クリスティーンが好きすぎて前のめりになってるから、ファントムとクリスティーンが楽屋の扉の向こうで話している声を聞いて、逆上しちゃったり(ここ、ピアノがさらにイライラをあおるように激しく弾かれて、そのピアノやめてくれないかってラウルがキレるのが実に効果的だったw)墓地でクリスティーンと会う場面でもちょっと軽い?って思うほどなんだけど、恋に浮かれてる若者なら、しょうがないよねって苦笑してしまう。

一方クリスティーンは、やはりコミック集団との場面(現実世界)では無力で従順な若い女性っぽくて、カルロッタに嫌み言われまくったり、リシャードに危うく解雇されそうになったり。一方でシリアスな場面(ファントムとの世界)では才能があって意志がしっかりした女性を表現しているという感じ。クリスティーン役のHelen Powerさんはとても華奢な方ですが、この身体からよくこれだけの声が出るなと思うほどの豊かな声量と確かな歌声。クリスティーンの歌うアリアは掛け値なしに素晴らしかったです。身のこなしもとても美しくて、要するに舞台に出てきた途端に彼女がクリスティーンであることに誰もが納得しちゃう。

この見ただけで納得させられるってことは、結構大事だと思います。観客が物語に入り込み、登場人物に心を添わせて、劇場でのひと時を過ごせるかどうかが決まってくるから。特に英語での上演なので、残念だけど言葉やニュアンスの情報をすべて受け取るのは難しいと思うし(もちろん個人差はあると思うけども)どうしても字幕に頼る分、見逃してしまう所も多いかなと思います。まあ、あくまでも超個人的な感想であるとお断りしたうえで、前回のビデオを観た時の想いを踏まえての感想ですが、今回のキャストと演出にはいろいろ変化が見て取れたと思いました。

前回の来日公演も、コミカル部分については、とても良かったと思います。ばかばかしいほどのコミカルさで、ヒステリックな日常をうまく描いていたと思います。でもこれと対比するシリアスな部分、主にファントムとクリスティーンの場面、オペラ座の闇の部分が、より洗練されていたら、もっと良かったのにという印象でした。ここに差があればあるほど、この作品が生きてくると思ったので。

その点で、まずHelen さんのクリスティーン、そしてJammesのJazzy Axtonさんにも言えるけども、とても華奢でかわいいイメージ、それに対してファントムのJOJさんも、ラウルのCamelon Barkleyさんも長身で見栄えがする。衣装も大体のデザインは同じなんだけど、クリスティーンで言えばヘアスタイルがとても自然でHelenさんに似合う感じに。ベージュのスカートのヘムラインのデザインは工夫されたのか、あくまでも着付けのテクニックか、ラウルがクリスティーンを抱き上げた瞬間のスカートの揺らぎ、走り抜けていくときに風をはらんでひるがえるところまで綺麗。(前回はスカートが重そうでもっさりして見えた)ファウストのシーンの白い衣装も同様ね。

いくつか例をあげると、

ドレッシングルームの扉の向こうのファントムとクリスティーンの会話。声だけなんだけど、ファントムはもう一世一代のハンサム声でクリスティーンに話しかけるんだけど、これに答えるクリスティーンが全く感情のこもらない声で、ファントムの言うことを繰り返す。ああ操られているんだなって声だけでわかる演技、とか。

ファントムの歌、声を聞いた時のクリスティーンの反応の演出も、変わっていました。ただ黙ってじっと聞き入る演技から、今回はファントムの声に反応するように、目を瞑り、腕を伸ばすクリスティーン。見ようによっては姿の見えないファントムに腕を這わせ、絡めるようにも見えて、艶めかしい(笑)。これはWhile Floating High Aboveでも、Ne'er Forsake Me, Here Remainでもそう。ファントムの歌を聴いている時の陶酔感(手の動き)


オペラ座の地底湖で、クリスティーンが手を縛られる場面も後ろ手で縛ってたので客席から見えなかったのが、客席からも見えるように前で縛ったり。(この場面でのお姫様だっこも、前回は無し。これWEファントムの御約束。これが日本で観られたなんてねw)

所作で美しいなと思ったのが、ラスト近くのファントムのチャペルで、背筋を伸ばして、腰の高さが揺れないように、音もなく滑るように歩くクリスティーンとそれを導くファントム。見惚れるような美しい場面が目に焼き付いています。Helenさんの身のこなし、ファントムに導かれるように歩みを進める時の背中から腰のラインと足の運びの美しさ。どう見えるかが計算されている。

JOJさんは元々所作、手の動きが特に美しいですけど、この作品でも随所に発揮されていましたね。私が多分この作品で一番好きなシーン、一幕の終わり、オペラ座の屋上でファントムとクリスティーン、ラウルとの三重唱の場面。ここはそういったことも踏まえて、三人のハーモニーの素晴らしさだけでなく、一服の絵のような忘れられない場面でした。眼福耳福。

上手く言えないんですが、こういう美しいシーン、シリアスなシーンが研ぎ澄まされて素晴らしくて、そしてあのコミカルシーンもある。この対比、これが交互に来て、こちらの心もアップダウンっていうのが、この作品の持ち味、良さなんじゃないかなと思いました。別にこれらを語るのに、前回どうこうなんていう必要はないんです。今回が素晴らしかったでいいですよね。でも目に見えないところで工夫改良されているんだな。そしてこれほど素晴らしい作品になったんだなって思ったものですから、あえてこんな書き方になってしまいましたw




随分と長くなったので、一旦ここまで。
なんかね、書きたい方向が定まらなくて、迷走しててすみません(笑)。


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[Cast]

Jammes: Jazzy Axton

The Manager(M.Richard): edward Nesborn

Remy: Nigel Godfrey

Debienne/The Groom/The Priest/Mauclair/gravedigger/The Old Man: Lloyd Scott

Raoul: Cameron Barclay

Mephistopheles/The Persian: Russell Dixon

Faust: Michael Mclean

Stagehand/Understudy: Patrick Kelly, Sebastian Dudding

Madam Giry: Helen Moulder

Christine Daae: Helen Power

Carlotta/Dominique/The Chrus Girl: Caroline Tatlow

The Phantom: John Owen-Jones

Lisette/Lady in Box/Understudy: Brittany Wallis


[公演情報]

ミュージカル『オペラ座の怪人~ケン・ヒル版~』
 ■日程:2018年8月29日(水)~9月9日(日)
■会場:東急シアターオーブ (渋谷ヒカリエ11階)
■生演奏・英語上演・日本語字幕あり
■料金:S席11,800円/A席8,800円/B席6,800円(全席指定・税込)
■原作:ガストン・ルルー(『オペラ座の怪人』より)
■脚本・作詞:ケン・ヒル
■主催・招聘・制作:キョードー東京
■公式サイト:http://www.operaza2018.jp

[上演時間]
1幕 70分
休憩 20分
2幕 65分
合計 2時間35分