今日も明日もJOJさんとか色々と

ジョン・オーウェン=ジョーンズさんをLove&Watchしてます。その他のネタも多し。

マーケティングで作られた「スター」なんて要らない/Open Your Eyes, Ears and Heart!

先々週くらいのことだったと思うが、午後7時に放送される民放全ての番組の視聴率が10%を切ってしまったそうだ。1つだけじゃない、全部!。各番組担当プロデューサーの深いため息がここまで聞こえてきそうな、業界的には「あり得ない」事態、それが今の日本のTV業界だ。
 
当たり前だろうな、と思う。おそらく私だけでなく多くのひとがそう思ってるだろう。なぜならこの時間に限らずテレビが圧倒的に「つまんない」からだ。同じような番組に同じような出演者が出てて面白くない。だから皆、TVなんて見なくなっている。
 
今は不況ということもあって、どの業界もスポンサーが集まらない。殿様商売ばかりしていたTV業界も同じ事態だ。加えて費用対効果を厳しく求められる時代なので各局の番組制作サイドは確実に視聴率が取れそうな、スポンサーがOKを出してくれるような、そんな番組ばかり企画して制作している。そして視聴者にあきられているのだ。広告代理店や各局の「優秀な」スタッフが彼らのノウハウ、マーケティング手法を駆使して、大衆が好むものを作り出したはずなのに、大衆は、私たちは振り向かない。
 
音楽業界も同じだ。
 
あるアーティストを大々的に売り出そうとするとき、プロダクション、CD会社、マネージメントサイドはどの層をターゲットにするか、どこをアピールポイントにするか、等々、様々な策を練る。CMスポットや人気テレビ番組の主題歌、化粧品会社まで連動させて大々的に売り込もうとする。彼らがひたすら信じる彼らの真理:
 
「メディアでの露出をとにかく多くすればすぐ売れるんだよ」
 
そう、そこでもずっとそんな風にやってきたのだ。大手広告代理店を中心としたマーケティングの専門家たちが集まって会議で戦略を考えて、そして勿論大きなお金が動かす。「感動」を生み出すアーティストを売り出すには「マーケティング」が必須。 そんな風にしてたくさんのアーティストが誕生し、そして消えていった。
 
かつて「マーケティング」というものが大きな位置を占めていた2つの業界、テレビと音楽。彼らは未だに自分たちは大衆の好みを知り尽くし、いつでも大衆が望むものを作ることができる、と考えている。でも今は違う。そんな安易なマーケティング手法で作ろうとするスターに一般大衆は振り向かない。彼らの思惑どおりになんかいかない、大衆は、私たちはものごとの奥まで見抜くことができる。その気にさえなれば。ネット全盛の世の中はそんなことも簡単にできてしまう。なのに彼らはそのことに余り気がついていない。
 
つくづく思う、日本のTV業界、音楽業界の行く末はこの先どうなるんだろう、かつて一緒に仕事をした多くのひとたち、彼らは今業界の現状をどう思ってるんだろう、と。
 
昨年10月の「レ・ミゼラブル」25周年コンサートで主役ジャンヴァルジャンを演じたアルフィー・ボウ。
彼は大プロデューサー、CM(キャメロン・マッキントッシュ卿)によって作られた「スター」だ。英国の業界事情には全く詳しくないので、その経緯は全てSさまのブログから知ったのだが、私は本当に不思議だった。なんでCMほどのプロデューサーが某(アルフィー・ボウ)を選んだんだろう。ミュージカル・オペラに限らず全ての表現芸術者は自身のパフォーマンスを積み上げたうえでその評価を勝ち得るべきだが、彼の場合は明らかにそうじゃない。経歴をちょっと調べてみればそれは一目瞭然だ。今の評価を勝ち得るに値する実績があったとは到底言えない。
 
CMは現在64才。レミゼオペラ座、キャッツ、ミス・サイゴンを始めとしたミュージカルの名作を次々と手がけたプロデューサーでその存在は世界に知られている。16歳の時にロンドンの劇場のおそうじ係りとして入って、大道具さん、舞台監督助手などを経て、プロデュースを手がけるようになり、今ではロンドンWEで7つの劇場を所有するなど世界のミュージカル界に君臨する帝王のひとりだ。
 
彼の辣腕ぶりは色々なところで語られているが、例えば90年代、BWのレミゼが中だるみ状態に陥ったとき、彼は大ナタをふるって、殆どのキャストを入れ替えた。ロンドンWEよりユニオンの力が大きいBWでは大きな困難を伴うキャスト入れ替え。CMは一人当たり3万ドル余りの違約金を払い、レミゼに喝を入れたという。結果、BWレミゼは息を吹き返し、興行成績も上がったという。またBWオペラ座にも自ら足を運び、シャンデリアの落下速度に至るまで定期的に内容をチェックしているとか。また「ミス・サイゴン」のプリプロでは作曲担当のレミゼコンビを南フランスに借りた広大な邸宅に滞在させ、仕事がはかどるようにとりはからっている。
 
余談になるが、私はお金にガメつい製作者=プロデューサー(P)というのは嫌いじゃない。もちろん程度によるが。私の場合はTV業界になるが、おカネにシビアなPさんはそのほかの事柄についてもきっちり対処してくれるので、現場の人間は仕事がやりやすかった。製作者はプロダクションの最終責任者だからカネ勘定ができなければ、絶対にできない。ショービズは慈善事業じゃないし、Pひとりの資産で興行を打つなんて今の時代にはありえない。どのプロダクションにも投資家がバックについているのだから、彼らを言い含めることができなければよい作品もできない。その意味でCMというのは本当に凄いプロデューサーだと思っている。
 
で、その彼が手がけたアルフィー・ボウ。レ・ミゼラブル25thO2コンサートで主演のJVJを務め、ミュージカル「スター」の地位を確立し、それ以前には英国オペラ界を代表する「スター」として知られていた某さん。
実はO2コンサートの映画を観るまで彼のことは全く知らなかった。オペラ歌手としての実績も聞いたことがない。もちろんO2コンサートには感動したけれど、それはラミンアンジョや学生達やラストのBHHカルテットで、彼のJVJには殆ど魅かれなかった。だから思った。「ほんとに何でこのひとなの。」と。 サブカル好きな私は「そうか、そこには愛があるのね。」とかまで考えた(真偽はもちろん不明)。
 
某さんの作品はひととおり聞いてみて、YT等でできる限りの映像も見た。確かに声は良い。でもこの程度の歌手なら他にいくらでもいる。ヨーロッパのほかの国で人気の歌手を比べてみたらすぐそれはわかる。そして何よりも彼が歌うとひとつひとつの言葉がの耳に入ってこないのだ。たとえばレミゼO2のJVJと25thツアーのJVJを比べて聞いてみたら違いはすぐにわかるだろう。
 
本当になぜあのCMが某をそんなにかっているのか。英国で彼を「スター」にして、それをきっかけにアメリカ巨大市場に打って出て、さらなるおカネ儲けに励もうとしているのだろうか・・・。
 
そしてギモンはまだ残る。某さんはレミゼO2出演のあと、オペラファンのみならずミュージカルファンにも絶大な人気を誇るようになったそうだ。でもれはいったい誰が言い出したことなのか。実際にO2アリーナで歌う某さんを観たひとではなく、誰かが言ったことを別の誰かがそのままひとに伝えてるだけじゃないのか。「某っていいらしいよ。」という言葉のみが広がっているのではないだろうか。
 
ミュージカルに限らず芸術を鑑賞する場合、お金を出してチケットを買った人間が満足すればそれでいい。たとえ他のひとが悪く言ってる作品であっても、実際に自分の眼で観て聞いて、感動できればそれで十分だ。そう言うひとは多いだろう。たしかに私もそう思っている。そして例えお手軽に作られたチャラいアーティストであっても聞く側が満足すればいいじゃないか、本人は感動してるんだから。そういうひともいるかもしれない。でもそれは長い眼で見たらとても困ったことになる。
 
マーケ手法で作られるようなパフォーマンスは結局それ以上の存在にはなれない。そんな作品にばかり接していると、聞く側の眼・耳のレヴェルは格段に落ちてしまう。そうするとせっかく格段に素晴らしいアーティストが出てきても聞く側はその魅力をキャッチできない。できなかったらアーティストたちはあっというまに消えていってしまう。そうすると全体的に質が低下し、ファンも減り、とどのつまり業界全体が縮小してしまう危険性がある。だから聞く側の眼・耳のレヴェルを高く保つのは本当に大事なことなのだ。
 
個人的には某さんのことは好きじゃない。それは彼のパフォーマンス云々より、オペラ界に大してケンカを売った形になった彼の発言「オペラを観に行くのはとても退屈」によるものだ。オペラには大して詳しくないが、METで幾つもの作品を観てきたし、滞米時に取材したことがあるので、多少の事情を知っている。オペラ歌手という職業がどれだけの努力と汗と涙と厳しい訓練を経たうえで到達できるものかということを知っている。だから彼の発言は納得できないしほんとにそう言ってたとしたら到底好きにはなれない。
 
話はすっかり反れてしまったが、どのミュージカル、どの音楽、どのオペラ、どのCDを選ぶかは全て私たち自身の眼・耳・そして感じる心にかかっている。だから巷に溢れる情報に惑わされず、自分自身で確認することがなによりも大切だ。そして今のネット社会ならちょっと努力すれば可能だ。騙されてはいけない。業界の手練手管や、したりガオで大衆をみきったようなプランを練るプランナーの思い通りになってはいけない。自分自身の眼・耳・心を開いてしっかりと見極めようとすればその真偽はわかるはず。、それは10年、20年後も素晴らしい作品たちがちゃんと世に出てくるためにも絶対に必要なことなのだ。本当にそう思う。心から。